大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成4年(ワ)2833号 判決 1992年11月06日

原告

ディックファイナンス株式会社

右代表者代表取締役

岡﨑亀徳

右訴訟代理人弁護士

吉野和昭

被告

兼松総合ファイナンス株式会社

右代表者代表取締役

疋田義明

右訴訟代理人弁護士

羽尾良三

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一請求

被告は、原告に対し、四一六万五〇〇〇円及びこれに対する平成三年五月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一事案の要旨

被告は、原告が後に吸収合併した会社に対し、三億円を貸し付け、同社の代表者を連帯保証人としていたが、先ず、主債務者の和議手続で右貸金の元本全額の分割弁済を受けることになり、その履行中に破産宣告を受けた連帯保証人の破産手続において、同一の債権届出をし、一部の配当を受け、その後、和議債権全部の履行を受けた。

本件は、右破産配当の一部は元本に対する配当であり、和議手続で元本全額の弁済を受けたことにより、元本が二重に弁済されたとして、不当利得返還請求権に基づき、原告から被告に対し、元本に対する配当分に相当すると主張する金額とこれに対する最終の和議債権の履行日の翌日である平成三年五月一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

二争いのない事実等

1  和議認可決定

訴外エサカ株式会社(旧商号・株式会社ローンズ江坂。以下「エサカ」という)は、大阪地方裁判所に和議開始の申立(昭和五九年(コ)第三二号)をし、昭和六〇年三月一八日、和議認可決定を受け、同年四月二三日右決定は確定した。

右和議事件における和議条件(関係部分)は、次のとおりである。

(一) 債務者(エサカ)は、各和議債権者に対し、和議債権元本金額を和議認可決定が確定した日から七日を経過した日を第一回とし、以後毎年同日に第七回までに分割して次のとおり支払う。

(1) 第一回は一六パーセント

(2) 第二回ないし第七回に亘り各一四パーセント

(二) 債務者が前項の分割弁済を完了したときは、各和議債権者は債務者に対し、和議債権に対する利息及び遅延損害金の全額を免除する。

(三) 債務者の代表取締役宮本正春(金正春)と同取締役小西宏幸は第一項の支払額について、債務者と連帯してその履行を保証する。

2  被告の和議債権

被告(旧商号・株式会社ケージーファイナンス)は、昭和五八年七月三〇日付金銭消費貸借契約(弁済期限昭和五九年七月三一日、遅延損害金年18.25パーセント、以下「本件貸付」という)に基づき、エサカに対し、次の債権を有していたのでこれを和議債権として届け出た。

(一) 貸付金元本 三億円

(二) 遅延損害金 二一九〇万円

(弁済期の翌日である昭和五九年八月一日から和議手続開始決定の前日である昭和五九年一二月二四日まで年18.25パーセントの割合)

3  エサカの吸収合併

原告は、昭和六三年三月一日、エサカを吸収合併した。

4  和議条件の履行

エサカ及び原告(吸収合併後)は、被告に対する和議条件に従い、和議債権元本三億円の弁済を次のとおり履行した。

第一回分 昭和六〇年四月三〇日

四八〇〇万円

第二回分 昭和六一年四月三〇日

四二〇〇万円

第三回分 (注)

四二〇〇万円

第四回分 昭和六三四月三〇日

四二〇〇万円

第五回分 平成元年四月二八日

四二〇〇万円

第六回分 平成二年四月二七日

四二〇〇万円

第七回分 平成三年四月三〇日

四二〇〇万円

(注)第三回分は、昭和六二年一〇月から平成元年九月まで、毎月末日限り各一七五万円宛の分割払(二四回)

5  金正春の保証債務

金正春は、昭和五八年七月三〇日、被告のエサカに対する本件貸付により生じるエサカの債務について連帯保証した(以下「本件保証契約」という)。

6  金正春に対する破産宣告

金正春は、昭和六二年一一月一三日午前一一時、大阪地方裁判所において破産宣告がなされた(昭和六一年(フ)第二二三号)。

7  被告の破産債権届出

被告は、昭和六三年一月二九日、右破産手続において、本件保証契約に基づく保証債権として三億五五八四万五〇〇〇円の破産債権届出をしたが、その内訳は次のとおりである。なお、被告は、右債権届出にあたり、破産債権届出書の「債権の種類」欄に「保証債権」と記載し、「債権額(円)」欄に右合計金額を記載し、左記内訳は、別紙に記載していた(<書証番号略>)。

(一) 本件貸付金元本二億一〇〇〇万円(和議条件の第1.2回分の合計九〇〇〇万円の弁済後の残元本)

(二) 本件貸付金の弁済期日の翌日である昭和五九年八月一日から昭和六二年一一月一二日(破産宣告日の前日)までの遅延損害金一億四五八四万五〇〇〇円

8  破産管財人は、被告の届出債権額につき、三億五四〇八万四五〇〇円を認め、一七六万〇五〇〇円(内一七五万円は、昭和六二年一〇月三一日に和議条件の第三回分の分割金として支払われた元本一七五万円である)を否認し、右否認額を除き、被告の債権額は確定した。

9  本件破産手続において、被告は、次のとおり破産配当(配当率2.0088パーセント)を受けた。なお、配当表には、被告の「債権の種類」として「保証債権」と記載され、「配当に加える債権額」として「三億五四〇八万四五〇〇円」と記載され、元本と損害金の区別はなされず、「配当することができる金額」欄にも配当額が一括記載されている(<書証番号略>)。

(一) 昭和六三年一一月三〇日

最終配当 三八一万一七一九円

(二) 平成二年四月二二日

追加配当 三三〇万一一三〇円

(合計) 七一一万二八四九円

10  原告は、被告に対し、平成三年四月、和議条件の最終回分四二〇〇万円の履行のため、既に手形を振出交付しているから、一旦手形決済をするが、手形決済後、破産配当として支払われた元本分を返還するよう事前に催告した(<書証番号略>)。なお、右手形は平成三年四月三〇日決済されている。

三争点

被告に対する破産配当は、被告のエサカに対する本件貸付金の元本に対する配当を含むか。

1  原告の主張

金正春の破産事件の破産債権の配当は、債権の種類(元本債権・利息債権・遅延損害金債権)の如何にかかわらず一律に2.0088パーセントの割合で配当がなされている。このことは、右破産事件の各破産債権届出書、破産債権表、配当表を比較すれば明らかである。

被告のように、債権者側において、元本及び利息金又は損害金を一括して「債権の種類」欄に「保証債権」等と記載し、「約定利息金」欄及び「遅延損害金」欄に記載しなかった者については、債権届出書に従って、債権表にも一括記載して債権認否を行い、配当表にも一括記載して、配当額も一括して記載されることになるが、実質は、元本及び遅延損害金のそれぞれに対し、同率の配当がなされたものと解すべきである。

そうすると、被告の破産債権額の元本(確定額)は二億〇八二五万円であるから、これに対する配当額の合計は四一六万五〇〇〇円となり、被告は、破産配当により右元本の弁済を受けながら、和議条件の履行として、右元本分につき二重に弁済を受けたものである。

2  被告の主張

破産債権者は、破産債権届出において、債権の種類(元本・利息・損害金)毎に債権届出をする必要はない。元本と損害金を一括して保証債権として届け出て、これに対し一括して配当がなされた場合、配当を受けた破産債権者がこれを元本部分に充当するか、損害金部分に充当するかは、債権者の任意である。そして、被告は、本件破産配当を損害金に充当したものであるから、本件貸付金の元本につき、二重弁済を受けたことにはならない。

第三争点に対する判断

一証拠(<書証番号略>)によれば、次の事実が認められる。

1  本件破産手続において、五八件の破産債権届出(五九件届出、一件取下)がされている。

2  右破産手続で配当がなされたもののうち二七件は、「債権の種類」欄に元本・利息・損害金の別を明示し、「債権額」欄に各別の金額を記載しており(以下「区分記載型」という)、二六件は、元本のみの届出であり、本件を含む二件(裁判所受付番号2及び58=本件)は、別紙明細で元本と損害金の区分を記載しているが、破産債権届出書自体にはその区分をせず、「債権の種類」欄に「保証債権」と記載し、別紙明細書に記載した元本と損害金の合計額を一括記載している(以下「一括記載型」という)。

3  本件破産手続において、破産管財人は、区分記載型の債権届出分については、債権表においても右区分を記載し、それぞれにつき認否をし、配当表においても、同様の記載をしたうえ、債権の種類毎の配当に加える債権額に応じ、元本・利息・損害金の区別をせずに、同一の配当率による配当額を算出し、これに基づいて配当を実施しているが、一括記載型の債権届出の場合は、別紙明細書によって、元本と損害金の区分は可能であるが、これをせずに一括して債権表及び配当表に記載し、認否及び配当も一括して行っている。

二ところで、破産管財人の行う配当は、破産債権者に対する弁済であるから、民法の弁済充当の規定が適用され、元本の外に利息及び費用(以下「利息等」という)を支払うべき場合は、民法四九一条の順序に従って充当するべきである。したがって、区分記載型の債権届出がされた場合でも、本来は、同条の弁済充当の順序によって配当するのが相当と考えられるが、同条は強行規定ではないから、当事者の合意によって充当の順序を変更することは可能であり、利息等を消滅させるに足りる弁済がなされないにもかかわらず、元本及び利息等のそれぞれに一律に配当する旨の配当表の記載は、利息等に充当されるべき配当の一部を元本に充当する旨の意思表示であり、配当表に対する異議がないことにより、充当の順序を変更することについて合意があったと解することもできなくはない。

三そして、前記認定のような破産管財人の処理から見れば、被告の破産債権届出を含む一括記載型の債権届出についても、元本と損害金を区分して債権届出をしていれば、区分記載型と同様に配当がなされたものと推測することができ、一括記載型の債権届出に対する配当についても、破産管財人の内心の意思は区分記載型の場合と同様であると推測することも不可能ではない。

四しかし、破産管財人は、元本の外に利息等を支払う場合は民法四九一条によるのが原則であり、これと異なる充当方法について破産債権者の合意を得るためには、配当表に元本に対する配当額を記載することによってその旨を明示することを要するものと解するのが相当である。配当表の当該債権者以外の記載から前記のような破産管財人の意思が推測できなくはないとしても、元本と損害金を区分して配当額を記載していない以上、破産債権者が配当表に異議を述べることはできないのであるから、このような黙示の意思表示を認めることはできない。

五そして、前記のとおり、被告の本件破産債権届出に対する配当表の記載は、本件貸付金の残元本と遅延損害金の合計額に対する配当額が記載されているだけであり、元本に対して配当する旨の意思表示があったものとはいえないから、右配当は、民法四九一条に従い遅延損害金から充当すべきである。しかして、その配当額が遅延損害金に満たないことは前記のとおりであるから、本件破産配当が元本に対する配当であると認めることはできないといわざるをえない。

六よって、原告の本訴請求は、その余の点について検討するまでもなく、理由がないから、これを棄却することとする。

(裁判官井垣敏生)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例